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本当に美味い酒

難関私立中学を目指して塾に通う子どもたちはみな「××中合格!」と書いたハチマキを巻いて、死に物狂いで勉強している・・というのは、たぶん塾の宣伝かマスコミ報道によって作られた「都市伝説」みたいなものだ。

入試まで半年強となったこの時期でも、まだ「行きたい学校は特にない」「友だちと一緒に近所の区立中に行きたい」と公言する6年生も少なからずいる。決して勉強が嫌いな訳ではないし、才能もあるし、塾も大好き。ただ執着心や闘争心とかが希薄で、親の甘言や教師の励ましにひょいひょい乗せられるほど幼くはない。そんなタイプの子たちだ。

こういう子は精神的なブレが少なく、意外とすんなり難関校に合格するケースもあるので、過度に煽りたてるべきではないのだが、「勝負の夏」を間近に控えてこのままではマズいと思い、別室に一人ひとり呼び出して、「中学生になったら何をしたい?」「将来どんな大人になりたい?」と尋ねてみた。

「好きな本を読んで、のんびり過ごしたい」「だからどこの中学でもかまわない」・・なるほど。どうやら「夢」や「野望」を抱かせるのは難しいようだ。

「でもさ、大人になってやってみたいことくらい、あるだろ?」「う~ん、お酒を飲んでみたい、かな?」・・・なるほど。さすがは僕の教え子だ(苦笑)。酒を飲むだけなら二十歳になれば誰でも飲めるさ。でもな。「本当に美味い酒」ってのは、一生のうちにそんなに何度も飲めるもんじゃないんだぜ。へとへとになるまでスポーツに打ち込んだあとの生ビールとか、大きな仕事をなし遂げたときの祝杯とか、好きな人にフラれて落ち込んでいるときに親友に励まされて飲む酒とか。何の目標もなく、何の達成感もなく、ただ惰性で飲む酒なんて旨くもないし楽しくもない。どうせ酒を飲むなら、「本当に美味い酒」を飲んでみたいと思わないか?

「小学生相手に俺はいったい何の話をしているんだ?」と自分でも呆れたが、彼は妙に得心がいったようで、清々しい顔つきで教室に戻っていった。来年の「志望校合格の祝杯」は無理だけど、きっといつか君と美味い酒を飲む日がやってくる。そのときを楽しみに俺も「現役」で頑張り続けるからな。