啓明舎(けいめいしゃ)|難関中学受験名門/失敗から学ぶ

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人は「失敗」からしか学ぶことができない

  塾生や卒塾生のご両親と立ち話をしていると、「先生のご趣味はなんですか?」「お休みのときは何をされているのですか?」と尋ねられることが多いのですが、私は「無趣味」な人間なので、「読書」という当たり障りのない答えしかできません(たぶん年に200冊くらいは読んでいると思います)

「やっぱり子どもの頃から読書の習慣は大切ですよね」と相槌を打たれると、また返答に困ってしまいます。なぜなら子どもの頃からは本を読むのが大嫌いで、大学に進学する頃まで、ほとんど本を読まなかったので・・。ついでに言っておくと文章を書くのも大の苦手で、作文や読書感想文の宿題が嫌で嫌で仕方ありませんでした。10年ほど前に新聞のコラムを書くことになり、最初の掲載紙を両親に見せたら、「あんなに作文が下手だった卓也が、まさか新聞に文章を書くなんて・・」と2人そろって絶句されたことは今でも覚えています。

さて、そんな読書嫌いの私が愛読していた本が3冊だけあります。1冊は『化学のドレミファ』という本(この本のことはいつか改めて紹介しますね)。そして『エジソン』と『野口英世』の伝記でした。

子どもの頃の私は、なぜかこの伝記のなかで2つのエピソードだけを何度も読み返していました。

ひとつは学校の勉強が苦手で、汽車の車内販売のアルバイトをしていたエジソンが、汽車のなかに勝手に実験器具や化学薬品を持ち込んで自分の実験室を作ってしまい、やがて薬品の爆発で火事を起こしてクビになる話。もうひとつは野口英世がものすごくお金にだらしない人間で、外国で研究をするためにいろんな人から借りた大切なお金でお酒を飲んで全部使ってしまう話。

結局私はエジソンのように「怪しい実験室にこもって薬品を混ぜ合わせる仕事」をしたくて、大学受験のときは理学部応用化学科を選択し、いろいろな事情で「科学者」の道を断念した結果、野口英世のようにだらしない大酒飲みになった訳ですから(嘘ですよ~)、確かに子どもの頃の読書体験は将来に大きな影響を与えると言えるかも知れません。


改めてエジソンの伝記を読んでみると、列車のなかで火事を起こすどころではない、はた迷惑なエピソードに満ちあふれた「奇人変人」であったことがわかります。「エジソンの発明」というと、真っ先に思いつくのが「白熱電球」(もしくは蓄音機)でしょうが、白熱電球の発明者はジョゼフ・スワンという人ですし、逆に電話機の発明に関してはエジソンの功績が多大であったにも関わらず、グラハム・ベルに特許をさらわれてしまうなど、特許権をめぐる泥沼の争いを何度も繰り返しました。ちなみに晩年は「死んだ人と交信するための電信装置」の研究に没頭していたそうですが、この研究は残念ながらいまだに完成していないようですね・・。

そんな奇人変人エピソードのなかには真贋の確かでない(本当の話か、単なる「ネタ」なのかがわからない)ものがたくさんあるのですが、電球のフィラメントの開発についてのエピソードは真贋に関係なく、心を打たれます。

新4年生の皆さんはちょうど「電流のはたらき」を勉強しているところでしょうから、「フィラメント」というのが豆電球のなかの細いバネみたいな金属であり、この部分が明るく光るということは知っているでしょう。いまは「タングステン」という非常に燃えにくい金属でできていますが、当時は長時間熱に耐えられる素材が見つからず、2000種類もの素材を試したあげく、最後に日本の竹を使うことでようやく長い時間点灯し続ける電球を完成させたというのも有名な話です。

この研究をしているとき、エジソンの奥さんだか友人だかが、

「2000回も失敗をして、無駄な時間とお金をかけたのだから、もう諦めたほうがいいんじゃないの?」と忠告したのに対して、エジソンは

「私はこれまでにフィラメントに適していない素材を2000種類も発見したのだよ。」

つまりそれは「失敗」なんかじゃない。1つ1つが、かけがえのない貴重な体験であり、発見なのだとエジソンは胸を張って語ったのです。そして

「世の中には少なくとも5000種類くらいはフィラメントとして使えそうな素材がある。まだ3000種類も残っているじゃないか」と。


今年受験を終えた卒業生のなかには、1月の最初の試験で失敗したあと、なかなか立ち直ることができなくて、そのあと×(不合格)を5つくらい続けて、最後の最後で涙の合格をかちとった先輩もいます。もちろん「1月から始まって、2月1~3日の受験まで全部合格した」という強者も大勢います。でも彼らだって、隔週テストやナビゲーション模試や6年秋からの「合格判定テスト」では何度も失敗をしてきたはずです。

「5回も受験して失敗してしまった。もうこれ以上頑張っても無駄なんじゃないか」と考えるのか、

「5回も失敗することで、自分は貴重な経験をし、たくさん反省したり、悔しい思いを積み重ねたりすることができた。まだあと3回も残っているのだから、きっと自分の力を出し切って、自分にとって一番の学校に合格できるはずだ」と考えるのか。

応援するご両親や私たちの思いとしては、「すんなり第1志望の学校に合格して欲しい」というのがホンネです。でも、もし5000種類の素材のうち、たまたま最初に実験したのが日本の竹で、1本めで首尾よく成功していたとしたら、その後のエジソンの発明はあったのでしょうか?

受験を終えた6年生の先輩たちも、またこれから中学受験を目指す新3~6年生の皆さんも、これからたくさんの失敗を積み重ねていくでしょう。でも、「失敗から学ぶ」という気持ちをもっている限り、それは「失敗」ではなく「新たな経験の蓄積」になります。

間違えたところを消しゴムで消して正しい答えを書き込んで、「全部○が並んだきれいなK&Mノート」を棚に飾っても何の意味もありません。間違えたところは赤で直して、なぜ間違えたのかをメモして、そこに「ここに貴重な自分の足跡が残っているんだ!」ということがわかるように、付箋を貼っておくこと。赤ペンの書き込みとたくさんの付箋がついたノートこそが、「燃え尽きてしまった2000種類のフィラメント」なのです。

授業時も、家で宿題をやるときも、必ず付箋を手元において、間違えたところ・わからないところにペタペタと貼っていきましょう。2000枚の付箋を貼り終え、自分が何を間違えたのか、その失敗から何を学んだのかを復習し終えたとき、君たちの学力は自分でも驚くくらいに伸びているはずです。

さあ、失敗を恐れず、どんどんチャレンジを続け、付箋が増えていくのを楽しんでいきましょう!