ここから本文です。

「カチッ」

 2月7日。首都圏の中学入試が幕を閉じた翌日に私はまたひとつ年をとった。

1年間来る日も来る日も6年生の指導に没頭し、最後のバックストレートを懸命に駆け抜けた瞬間に、「カチッ」という音がして自分の余命が1つ減る。その音を聞いた瞬間に1年間の疲れがどっと心身を襲い、体力の衰えを痛感して、膝から崩れ落ちそうになる。それが毎年の誕生日の行事だった。


ところが今年は例年とはちょっと雰囲気が違っていた。7日が月曜日で、新たに担当する新6年生の新学期開講日に重なったからだ。20名近い新入塾生を加え、定員を超えそうな盛況のなかでの最初の授業。「きょうから(後)先生だ~」という期待と不安(?)の声に、「カチッ」という音はかき消されてしまった。

さらに翌日は新3~5年生の開講日。在塾生に加えて、100名以上の新入塾生と保護者が狭い校舎内にあふれかえる。「先生のご本の大ファンなので、直接お目にかかれて光栄です」「6年になったら先生のクラスに入れるように頑張らせます」・・そんな低学年の保護者からのあたたかい言葉。

あと何回「カチッ」という音がすると残りのLP(ライフポイント)がゼロになるかわからないという不安に駆られながら、でもこうして子どもたちの元気な顔と保護者の期待のまなざしを目の当たりにすると、ついつい「今年1年全力で突っ走るぞ~。遅れずについて来いよ~」と気合が入ってしまう。

おまけに週末には、受験を終えた卒業生のほとんどが「新中1生」として2週間ぶりに授業を受けに来てくれた。「よく頑張ったぞ」「悔しい結果だったけど、最後は見違えるくらい成長したよな」・・・一人ひとりに語りかけたい言葉が山ほどある。


一つの大きな仕事を片づけたはずなのに、たくさんの失敗や反省に凹んでいるのに、両肩でも背負えないくらいのたくさんの期待が僕たちを迎えてくれている。こんな素敵な仕事って、他にあるのだろうか?

「カチッ」・・それは僕の余命を刻むカウンターではなく、厳しい道だけれど、でも心踊る新たな1年の幕を開けるストップ・ウォッチの音なのかも知れない。