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『試練の夏』から『勝負の秋』へ

 暑い夏がようやく過ぎ去ろうとしています。

私が中学受験指導を始めて28年目。途中3年間ドイツに留学していたので、今年が通算25回目の夏ということになります。毎日朝9時から夜9時までの授業は年齢的にちょっとキツくなってきましたが、はじめて塾に通う3・4年生との出会いも楽しいし、ようやく(?)本気になり始めた6年生の姿を見るのも嬉しい。1か月以上も、朝から晩まで授業だけに専念できるという点では、1年のなかで一番楽しい時期でもあります。少しでも長く、こんな充実した夏を過ごし続けたいと思っています。

さて、この夏の一番の話題といえば、やはりロンドンオリンピックでしょう。帰りが遅くなってタクシーに乗ると、必ずといっていいほど、「これから女子サッカーの応援ですか?」「柔道は全然いいところがなかったですね」などと運転手さんに話しかけられました。私はオリンピックには興味がないし、翌朝も出勤が早いので、テレビ中継もまったく見ていないのですが、ニュースを見ても、新聞を開いても、インターネットを繋いでも、オリンピックの記事一色で、個人的にはちょっとうんざりしていました。

自分自身が子どもの頃からまったくの運動オンチだったので、スポーツの世界で活躍する人たちには強い憧れを抱いています。だから、例えばサッカーや野球が大好きな子には「自分が好きなことにとことん打ち込めない奴は、受験勉強でも頑張れないんだ」と、できる限り、塾通いとスポーツとの両立を続けるように勧めています。

では、なぜオリンピックに興味が持てないのか。

それは「頑張れニッポン」と「メダル獲得の感動の瞬間」ばかりを連呼するマスコミの報道姿勢があまり好きになれないからです。 

オリンピックはなによりも世界の友好と親善のためのイベントであり、「大国」間のメダル獲得数争いの場ではないはずです。1回戦で敗退した選手にも、もっと惜しみない拍手と声援が送られるべきだし、何よりも4年に1回の世界的なイベントなのだから、ふだんは目にすることのないような「マイナー」な競技の様子とか、「わずか5人だけのパラオ選手団の素顔」とか、世界にはいろんな国があり、いろんなスポーツがあるということをもっと伝えてほしい。自国選手の勝利の笑顔だけではなく、もっと他に、子どもたちに誇るべきこと、伝えなければならないことがあるのではないか。私が「ひねくれ者」なのかも知れませんが、そんな思いをぬぐい去ることができません。


いまから10年前。日韓共同開催によるサッカーのワールドカップが開催されたときのことです。強豪ひしめくヨーロッパ予選を勝ち抜いたデンマークは、和歌山をキャンプ地として選びました。「デンマークってどこの国?」「ベッカムとか有名な選手はいるの?」最初はわずか数百人の観衆が興味半分でデンマークチームの練習を見物に訪れただけだったのが、日を追うごとに2000人、3000人と観客数が増えていきます。それは、他の強豪国が勝利と秘密保持のために練習を非公開にしていたのに対し、デンマークチームはすべての練習を公開したばかりか、全選手が気さくにサインに応じ、和歌山の子どもたちを招き入れて一緒にミニサッカーを行ったりしたからでした。

ある記者がデンマークのオルセン監督に「他国は練習を公開しないで、試合に備えていますけどデンマークはこれでいいのですか?」と尋ねたら、オルセン監督はこう答えたそうです。

「われわれの強さは練習を秘密にしたところで変わらない。絶対的な自信をもって試合にのぞむだけだ。何より、キャンプ地を提供してくれた和歌山の人たちが喜んでくれることはどんどんするべきだ。試合も大事だが、この交流も大事にしたいと選手全員も言っている」。

デンマークは見事予選リーグを勝ち抜きましたが、決勝トーナメントでイングランドに敗れます。でも和歌山の人たちはこのときの思い出を大切にし、いまでもデンマークのサッカーチームを応援する私設応援団が熱狂的な声援を送り続けているそうです。

この逸話がどこまで事実なのかはわかりませんが、私はこの話が大好きです。 


母国の威信と大きな声援を背に、私たちには想像もできないようなプレッシャーのなかで、見事メダルを手にした選手たちの偉業にケチをつけるつもりは更々ありません。日本経済の苦境や未曾有の大災害にあえぐなかで、日本選手団の雄姿に勇気をもらった人たちも大勢いるでしょう。

戦う以上は常に勝利することを目指すべきです。だから、これから中学受験という苦しい戦いに赴く受験生たちにも、「最後まで諦めるな」「絶対に合格という金メダルを勝ち取ってこい」と、心から声援を送りたいと思います。

でも彼らを見守り指導する私たち大人は、ただ結果としての「勝利」(合格)を讃えるのではなく、どんな結果に終わろうとも、「自分はこれだけの勉強をしてきたんだ」という誇りをもって全力を尽くすことを、そして苦労を共にした仲間や自分を支えてくれた家族への感謝の気持ちこそが一生の財産となるような、そんな受験をさせることを、何よりも大切にすべきだと思うのです。

夏が終わると、6年生はいよいよ入試に向けての「勝負の秋」。模擬試験や過去問演習などでなかなか結果を出すことができず、へこたれそうになることもあるでしょう。でも、「結果を恐れず、勇気と誇りをもって困難に立ち向かう」気持ちを忘れずに、自分の夢・自分の目標に向かって歩み続けてください。「本当の勝利」とは何なのか、それは戦いが終わったときにはじめてわかるものなのですから。