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「王」となるための資格

私の唯一無二の趣味は「読書」なのですが、最近、これまでずっと避けてきたあるジャンルが「マイブーム」となっています。それは「ファンタジー小説」。なかでも小野不由美さんの「十二国記」シリーズに夢中です。実はつい最近まで私はこのシリーズの存在を知りませんでした。それは「講談社ホワイトハート文庫」という十代の女の子向けのレーベルから出版されていたからです。
この「未知の領域」に足を踏み入れるきっかけとなったのは、上橋菜穂子さんの『獣の奏者』(国語の問題の出典にもなっている有名な小説です)の「解説」で、北上次郎さんという小説家が『十二国記』シリーズを絶賛していたから。北上さんは「天使とか魔法が出てくると、その瞬間にぱたんと本を閉じてしまう」くらいにファンタジーが苦手で(私と一緒)、知り合いに『十二国記』シリーズを薦められたときも「なにしろ、講談社ホワイトハート文庫である。年少読者向けの叢書であり、中年男性が手にするのはそれだけで恥ずかしい」と思ったけど、読み始めるととまらなくなり、朝までかかって8冊を全部読み切ってしまった」と書かれています。この点も私と同じですね。

「十二国記」は、古代中国を下敷きにした、仙人や妖魔が跋扈する異世界の物語ですが、「よくできているなあ」と思うのは、十二の国の王は、王に仕える十二体の「麒麟」(ふだんは人間の姿だが、伝説の魔獣に変身できる)が「たぶんコイツかな~?」という「天の意思」を感じて選ぶというところ。身分も年齢も経験も関係ないので、「ホワイトハート文庫」の読者と同じ十代のフツーの女の子や美少年が王になる。実は「麒麟」もごくフツーの少年少女で、「妖魔」を従えることができる以外は、「汚らわしいから、血を見るのもイヤ」という存在。そんな王と麒麟が「私に王なんかが務まるわけないじゃん」「戦う力も勇気もないのに、どうしてボクが麒麟なんだろ?」「お母さんや学校の友だちに会いたいよう」「なんでオレは、こんな頼りない王に仕えなければならないんよ」と悩みながら、妖魔や厳しい環境やずる賢いオトナを相手にドラマを繰り広げていくのです。

例えば『風の万里 黎明の空』という作品では、突然異世界に連れてこられて、無理やり「王」にされしまった女子高生と、暴君として憎まれていた王が失脚して追放された王女と、もともと貧乏な農家の生まれだったのに、異世界に迷い込み、さらに過酷な境遇での暮らしを強いられた娘が、それぞれ自分の不幸な境遇を嘆きながら、波瀾万丈の旅をするお話。でも、貧困や妖魔に苦しめられながら健気に生きている人々との出会いを通して成長し、やがて3人が出会い語り合うなかで、
「人間って、不幸の競争をしてしまうわね。自分がいちばん可哀相だって思うのは、自分がいちばん幸せだって思うことと同じくらい気持ちいいことなのかも知れない。自分を哀れんで、他人を怨んで、本当にいちばんやらなきゃいけないことから逃げてしまう」ということに気づき始める。そんな「等身大」の十代の少年少女の悩みと成長が、摩訶不思議な世界のなかで描き出されているのです。

思えば皆さんも、知らぬ間に「中学受験」という摩訶不思議な世界に連れてこられて、「偏差値」という「妖魔」や「ずる賢いオトナたち」(誰のことだ・・?)に惑わされながら、「小学校の他の友だちは毎日楽しく遊んでいるのに」「××中なんて、私が合格できるはずないのに」「お父さんやお母さんなんて、私の気持ちをぜんぜんわかってくれないんだ」・・・なんて、いろいろ悩みながら、日々を過ごしているのかも知れません。
『図南の翼』という作品では、12才の女の子が荒れ果てた国を救うために「自分が王になるしかない」と決意して、一人家を出て、妖魔の跋扈する世界に乗り込みます。自分には何の力もないし、自分こそが王に相応しい人間だと思い上がっているわけではない。「こんな小娘に何ができる」とオトナたちに嘲笑されても、彼女は自分が名乗りを上げることで、仮に自分が王として選ばれなくても、きっと王に相応しい誰かが立ち上がり、この国を救ってくれるきっかけになると信じています。
啓明舎に通い、中学受験をすれば、必ず輝かしい未来が待っているというわけではない。そもそも志望校に受かるかどうかもわからない。「だったら、何のために、遊びたいのを我慢して勉強しなければならないのだろう?」・・そんな悩みや不安をもつのも当然のことです。
でも、君たちが立ち上がらなければ、君たちの人生という「王国」には、いつまで経っても「王」は誕生しません。「王」として相応しい存在になるためには、これからまだたくさんの試練を乗り越えなければならないでしょうが、「自分を哀れんで、他人を怨んで、本当にいちばんやらなきゃいけないことから逃げてしまう」ような人生なんて、過ごしたくないでしょう?

特に6年生の皆さんは、これからがいよいよ「王」として選ばれるかどうかの試練に立ち向かうことになります。模試の成績とかを見ては、萎えそうな気持ちになっているかも知れません。でも、大丈夫。「王」になるための資格は1つだけ。それは「自分から立ち上がること」。そうすれば、君たちの「麒麟」である我々が、「なんでこんな王に仕えなければならないんだよっ」とか愚痴をこぼしながら(冗談です)、君たちを「王」として認め、全力で支えていきますから。