啓明舎(けいめいしゃ)|難関中学受験名門/いちばんいけないのは・・・

ホーム > 塾長・後藤卓也のつぶやき > いちばんいけないのは・・・

ここから本文です。

いちばんいけないのは…

いま劇場公開されている『おおかみこどもの雨と雪』というアニメーション映画、もう観た人もいるかも知れません。今回はこの映画の感想を・・・と思っていたのですか、53才のオジサンの身体にとっては夏期講習やサマーセミナーが予想以上の重労働で(汗)、まだ鑑賞できていません。
でも、きっとどこかで時間を作って観に行くはずです。なぜならば、この作品を作った細田守監督の前作『サマーウォーズ』があまりにも素晴らしかったからです。
 この夏もテレビ地上波で再放送されていたようですから、観た人も大勢いるでしょう。私は3年前の劇場公開時、夏期講習のさなかに映画館に観に行きました。家族連れで満員の映画館で、いいトシをしたオジサンが一人でボロボロ涙を流しながらアニメを観ている姿は、傍目からみるとかなり不気味なものだったと思いますが、あれだけ泣けた映画はそれほど多くはありません。

ごくごく単純にまとめると、インターネット上で作られる仮想空間の無限の可能性と、そこに潜む危険な落とし穴、そして現実社会での人と人との繋がりの大切さがこの映画の主題です。こんな重苦しく、またいろんな小説や映画を通して描き尽くされたテーマを、小中学生でも楽しめるような「ひと夏の冒険」として明るく描き出した監督やスタッフの手腕は本当に称賛に値すると思います。
作品の主題についてはこれ以上触れず(もし観ていなかったらDVDを借りて観てください)、1本の映画を観るときでも、いろんなことを知っていると何倍も楽しむことができる、素敵なシーン・素敵なセリフを日記や感想文に書き留めておくと、あとから何度でも楽しんだり、感動を再現したりできるんだよという、映画や小説を楽しむためのアドバイスをお話ししようと思います。

ひとつには舞台背景。作品中では「我々のご先祖は徳川15万の大勢に勇猛果敢に立ち向かったのじゃ」と「おじいちゃんたち」がご先祖自慢を始めるのですが、この「ご先祖様」とは真田幸村。『真田十勇士』『真田太平記』など多くの歴史小説や映画・ドラマに登場する「ヒーロー」であり、『サマーウォーズ』の舞台となる「おばあちゃんの家」のモデルは真田家の居城信州上田城の城門の一部。
啓明舎で歴史の勉強をしてきた諸君ならば、なんとなく思い当たるフシがあるでしょう。1600年の徳川対真田の「第2次上田合戦」で真田軍に翻弄された徳川秀忠の大軍は、上田で足止めをくらい、「天下分け目」の関が原の合戦に間に合うことができませんでした。ひょっとしたらここで、その後の日本の歴史を塗り替えられていたかもしれないのです。

もうひとつは、ものすごく「個人的」な思い入れの産物ですが、最後の「バトルシーン」で主人公の一人である「サツキ」が「大ボス」に敗れそうになるその瞬間、ドイツ人のある少年が、
「サツキ。ボクのアバターをどうぞ使ってください。そしてボクの大切な家族を守ってください」
という協力のメッセージを送ります。この感動のシーンで、メッセージはまずドイツ語で表示され、それから日本語に変換されていくのですが、もしほんのカタコトでもドイツ語がわかると、それだけでコミュニケーションの扉が少し余分に開けたような気がして、ちょっと嬉しくなります。
 受験科目に「外国語」はありませんが、国語の勉強だって同じことです。知っているコトバの数が増えれば、それだけストーリーや登場人物の心の動きをよりよく理解することができるし、信州上田という土地柄や真田一族のことを知っていると、さらに深く映画を楽しむことができます。
自分の世界を拡げていくこと――それが「勉強する」ことの意味なのだと私は思います。

よい小説やよい映画には、「誰かと共有したい」と思うような素晴らしいシーンや、感動的なセリフがたくさんあります。『サマーウォーズ』のなかで一番のお気に入りは、やはり「栄おばあちゃん」の
「いちばんいけないのはおなかがすいていることと、独りでいることだから」
でしょう。
いよいよ世界の滅亡まで秒読みかというクライマックスで、主人公の仲間(家族)たちは、栄おばあちゃんのことばに励まされ、そして全員で思いっきりごはんを食べ始めます。もそもそとひとりでハンバーガーを食べるのではなく、大勢で楽しく美味しくごはんを食べることがどれだけ勇気を奮い立たせてくれるかを、このシーンは伝えてくれます。
そういえばサマーセミナーの食事も、まさに壮観でした。300人近い子どもたちが、大広間じゅうに響きわたるような大きな声で「いただきます!」と唱える。最終日の昼食後はそのまま閉会式に移り、表彰式で名前が読み上げられるたびに会場じゅうで「おお~っ」「すげぇ~」という称賛の声と拍手が鳴り響く。そして最後の最後を締めくくったのは
「よっしゃ!」「啓明舎!」の合い言葉。
まわりで見守っていた先生たちが、何人も目をうるうるさせていたことに、君たちは気づいたでしょうか? もちろん私もその一人でした。

君たちがこれから赴くのは「中学受験」という戦いの場。そこで繰り広げられるのは、君たちひとりひとりと「入試問題」との戦いです。でも、こうしていっしょにごはんを食べ、いっしょに勉強し、いっしょに「よっしゃ!」と叫んだ仲間たちとの思い出は、最後の最後、「もうダメかも知れない」と弱気になりかけたときに、きっと勇気を与えてくれるはずです。
これから(6年生にとっては)残り5か月。厳しい戦いが続きますが、美味しいものを食べて、しっかり勉強して、一歩一歩着実に歩んでいってください。