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世界に拡げよう、啓明舎の「よっしゃ!」

3月8日の夜12時頃、保護者会の打合せが終わって家路に着こうしたとき、東京ドームから流れてくる大勢の野球ファンでごった返す後楽園駅のホームで、「僕はいまどこにいるんだろう?」という違和感におそわれました。
それはまさにWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、日本対チャイニーズ・タイペイ(台湾)の試合が終わった直後の時間帯。「侍ジャパン」の応援団がまだ球場で逆転勝利に酔いしれているとき、後楽園駅は失意の台湾応援団の発する中国(台湾)語で覆い尽くされていたのです。 
 
実はこの試合、私は台湾チームを応援していました。台湾野球連盟の首席顧問はかつて中日ドラゴンズで大活躍した郭源治さんですし、私は昔から「判官贔屓」の気質が強いひねくれ者なので、もし台湾とオランダが、完全なる「アウェー」状態を克服し、「野球大国」であるキューバと日本を破って決勝に進出したら、さぞかし面白いだろうなと思っていたのです。
台湾チーム以上に応援していたのがイタリアとスペイン。サッカーでは世界最高峰に君臨する両国ですから、「野球選手になりたい」と思っているスペインの小学生が「野球? 何それ? バカじゃねぇの。なんでサッカーやらねぇんだよ」と友だちにイジメられながら、ひそかに母国チームの活躍に声援を送る姿を想像しては、勝手に「エール」を送っていました。

かつてサッカー後進国であった日本も、ヨーロッパや南米から多くのスター選手や指導者が来日し、若い選手や子どもたちが真剣にサッカーに取り組むようになって、いまでは「プロ野球選手」より「サッカー選手」になりたいと答える小学生の方が多くなりました。
逆に日本から海外に渡り、日本の文化やスポーツを広めようと奮闘してきた人々も大勢います。こうした人と人との出会い、文化と文化の交流は、予想もしないような化学変化を起こし、世界を変えていく可能性さえあります。だから日本の柔道選手がオリンピックで金メダルをとれなかったことを嘆くよりも、「JUDO」が世界共通語になり、本家本元の日本が勝てないくらいに世界じゅうに柔道の輪が拡がったことを喜び、誇りに思うべきじゃないかと私は思うのです。

自国の文化を世界に拡げていく、もしくは他国の文化を輸入し根付かせていくには、「パイオニア」たちの血の滲むような努力が不可欠です。たとえば「フランス料理」を日本に普及させた辻静雄氏の半生を描いた『美味礼賛』(海老沢泰久著 文春文庫)という作品は、涙と涎(よだれ)なしには読めない大々傑作です。
辻静雄氏のように誰もが認める大成功を収めた人ばかりではありません。大崎善生さんの『将棋の子』は、プロ棋士を目指して奨励会に入会したものの、まったく芽が出ぬまま退会していく若者たちの姿を描いた小説ですが、このなかに無一文で世界放浪の旅に出て、数年後ブラジル代表として世界選手権を制した江越克将さんのエピソードが登場します。江越さんはその後チリで将棋連盟の支部を立ち上げたり、昨年5月には久しぶりに帰国して故郷の丸亀で母校の中学生と指導対局を行ったりしながら、いまでも古い将棋盤や駒を南米に寄贈してもらい、南米の子どもたちに将棋を広めるための運動を続けているそうです。
棋士の道を断たれ、絶望の底にいた一人の若者が、お金もなくカタコトの英語すら話せないのに、20年以上も世界各地を転々とし、やがて南米に居を定め、今でも将棋の普及のために尽力している。いったいどれだけの苦労があったのでしょうか。ひょっとするといつの日か、チリからやってきた若者が森内名人や羽生三冠と将棋の世界統一王座をかけて戦うことがあるかも知れません。そのとき君たちはどちらを応援しますか? 「頑張れ、ニッポン」と叫びますか? それとも江越さんが南米に広めた将棋という遺伝子が開花したことに快哉を送りますか?

かくいう私にも、ささやかな夢があります。それは中学受験という「文化」を世界に発信すること。
私は西ベルリンに2年半ほど留学していたのですが、ドイツ人に「中学受験のための学習塾」の存在を理解してもらうのはタイヘンでした。なにしろドイツの小学校は午前中で授業が終わってしまいますから、午後も小学校で勉強し、そのあと夜遅くまで塾に通い、日曜も祝日も夏休みも受験勉強なんて、ドイツ人にとっては銀河系の果ての遠い星での出来事にしか思えなかったのでしょう。
いまの日本の教育制度や進学塾のあり方が最良のものだとは思いません。でも他国の教育のよい側面だけを並べ立てて、「受験戦争」に駆り立てられる子どもたちを可哀相と決めつける論調にはむかっ腹がたちます。「受験勉強は無味乾燥な詰め込み教育だ」と断罪する前に、「一度でいいから啓明舎の授業と教材と啓明舎生の笑顔を見に来い」と叫びたくなります。
「インドでは19×19まで暗記させる」という話がさかんに報道されていましたが、日本の中学受験生の(とりわけ啓明舎生の?)計算力や問題解決能力は間違いなく世界でもトップクラスです。だから皆さんにも胸を張り、誇りをもって勉強してほしいし、中学受験の世界・入試問題の難しさと面白さ・そして啓明舎の生徒たちのようすを、世界じゅうの人たちに伝えていきたいと思うのです(ちなみに『秘伝の算数』は3冊とも韓国語に翻訳されて出版されています)。

いつかどこかの国のテレビ局や政府関係者が「ニッポンにはケイメイシャというジュクがあって、そこの卒業生がノーベル賞受賞者や世界的な名医として活躍しているらしい」という噂を聞きつけて取材にくる日も遠い先ではないかも知れません。私はそう信じています。