啓明舎(けいめいしゃ)|難関中学受験名門/感情をコントロールするということ

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感情をコントロールするということ

みなさんは「中性浮力」という言葉をご存じでしょうか。
「浮力」という言葉は聞いたことがあるけど、「中性」の浮力ってなに?「酸性」とか「アルカリ性」の浮力もあるの?リトマス紙の色が変わったりするの?
いえいえ。「中性浮力」Neutral buoyancyとはダイビングの用語で、「浮きも沈みもしないニュートラルな状態」を意味します。

たとえば水1リットルに100グラムくらいの食塩を溶かしてみましょう。海水の塩分濃度が約3.5%ですから、海水の3倍近い相当に濃い食塩水になります(なめてみればその塩辛さがわかるはずです)。ここに卵を入れてみます。新しい卵は重い(厳密にいうと密度が大きい)ので沈んでいきます。これは卵にかかる重力より浮力の方が小さいからで、この状態を「マイナスの浮力」といいます。古い卵はその逆で「プラスの浮力」がはたらき、ぷかぷかと浮かびます。中ぐらいの古さの卵だと、浮きも沈みもしない「中性浮力」の状態になるというわけです。

人間の身体は海水中では絶対に浮かびますが、ダイビングをするときは酸素の詰まった重いボンベを背負い、さらにおもりを身体にまきつけて、適度に沈むぐらいに重さを調節します。だって浮かんでしまったら、海底探検はできませんからね。そして酸素ボンベからスーツのなかに空気を送り込んだり、排気したりする「BC」という装置を使って、浮かんだり沈んだりするのです。などと偉そうに説明していますが、私は昨年ダイビングを始めて、プール研修1日と海での研修2日でようやく「OWD」(オープン・ウォーター・ダイバー)という初歩中の初歩の認定をとったばかりの、「南部ダイバー」ならぬ「超あまちゃんダイバー」ですから、ダイビングに詳しい方は適当に読みとばしてください。

最初のうちは、「ほら、ここにカクレクマノミがいますよ」と教えられて近寄っていくと、そのまま身体ごとイソギンチャクに突っ込んでいきそうになったり、真上をマンタ(イトマキエイ)が通過しつつあるのに急に身体が浮上しはじめて、あわててインストラクターに身体を支えてもらったり、もうパニック状態にならないようにするだけで精一杯でした。
しかし認定をとり、先日3回目のダイビングに挑戦したときは、どうにか「中性浮力」の状態を維持できるようになってきました。こうなると「BC」を使わなくても、簡単に、ほんの少しだけ浮上したり、海底に近寄ってウミウシを観察したりできるようになります。なぜなら人間の身体のなかには「肺」という巨大な浮き袋があるからです。深く息を吸って少し吐くことを繰り返すと、肺がふくらむために「プラスの浮力」がはたらいて浮上し、逆に大きく息を吐くと、肺の容積が小さくなって、身体は沈んでいきます。

息を吸ったり吐いたりするだけで、浮いたり沈んだりできるって、本当に不思議な感覚です。「あまちゃんダイバー」が潜ることができるのはせいぜい水深20メートルぐらいまでなので、私の愛するメンダコとかダイオウグソクムシのような深海生物(余談ですが、国立科学博物館の特別展示「深海」では標本しか観られないので、是非「沼津港深海水族館」に足を運んでみてください!)を間近で観ることは叶わぬ夢ですが、3次元の海中空間を自在に移動できる感覚を味わえただけでも、ダイビングを始めてよかったと思います。
さて、ここからが本題です(前置きが長くてすみません)。

私は海の底で「中性浮力」の感覚を楽しみながら、「感情のコントロールにも同じ原理があてはまるのではないか」と、とりとめのないことを考えていました。
テストの直前とか、テストを受けている最中は、感情の浮き沈みを制御するのがとても難しいものです。
「おっ、きょうは行けそうだ。すいすい解けるぞ」「よっしゃ、これは満点かも?」なんて思ったときは、思いがけないミスを連発しがちです。逆に「うわ~、もう絶対ムリ」「どうしよう、またクラスが下がっちゃう……」とネガティヴな気持ちになると、解けるはずの問題も解けなくなって、やっぱり失敗してしまいます。「落ち着いて、ふだん通りにやれば大丈夫よ」と言われても、その「ふだん通り」ができないところがテストの難しさ。まして入試本番なんて、尋常な精神状態では臨めません。

もし、自分の気持ちが「ハイ」(高揚した状態)になっていると感じたら、大きく息を吐いて、小さく吸うことを何回か繰り返してみましょう。少しずつ気持ちが落ち着いてくるはずです。「ああ、もうダメだ」と落ち込んでいるときは、小さく息を吐いてから胸いっぱいに息を吸い込むことを繰り返します。すると前かがみになっていた背骨がまっすぐになり、気持ちも前向き(上向き)になってきます。
すると、少しずつまわりの状況が見えるようになります。斜め前に座っている自分の親友が、必死になって問題に取り組んでいる姿が目に映ります。「そうだよな。他の受験生もみんな苦しいんだ。自分だけが浮かれた気持ちになったり、落ち込んだりしている場合じゃないぞ」……そう思えたときが「中性浮力」、つまり「ふだん通りの自分」に戻れたときなのです。

「いやいや、そんなに上手くいくはずがないよ」と思ったキミ。嘘だと思うなら、一度テストのときに試してごらんなさい。私はダイバーとしては超初心者ですが、受験に関しては大ベテランですから。
もし、上手く気持ちをコントロールして「中性浮力」を維持できるようになっても、成績が上がらないときはどうすればいいかって?人間の身体には浮き袋(肺)だけじゃなくて、ちゃんと手足がついているじゃないですか。顔をあげて、バタバタと足ひれで水をたたき、手で水をかいていけば、身体は浮上します。気持ちを落ち着けることと、懸命に手足を動かし続ける(=努力し続ける)こと。

やがて水面上に浮上し、マスクをとって思いっきり外の空気を吸い込んだときの爽快感も、ダイビングの醍醐味のひとつです。「あ~、苦しかった」……心地よい疲労感とともに、「また潜ってみたいなあ」「今度はもっと深くまで挑戦してみたいなあ」という気持ちになる。
無事志望校に合格したら、お父さん・お母さんにおねだりして、南の島でダイビングを体験してみませんか?そんな「お楽しみ」ができたら、この暑い夏、厳しい夏期講習も、きっと乗り越えられるはずですよ。