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言葉の海に漕ぎだそう

いま4階の図書コーナーに「子どもたちからの本の紹介文」がたくさん掲示されているのをご存じでしょうか。
本の内容をくわしく紹介してくれているものもあれば、「すごく面白かった。超オススメ!」という簡潔なものもありますが、「いまの小学生はこんな本が好きなんだ」「へぇ、この子がこんなに難しい本を読んでいるのか」といろんな「発見」に満ちていて、とても楽しいものです。

この企画の言い出しっぺは私なのですが、なぜ「読書感想文」ではなく「紹介文」なのかというと、
「子どものころ、読書感想文を書かされるのが大嫌いだったから」
なのです。読書自体がそんなに好きではなかったし、作文そのものがものすごく苦手だったということもありますが、感想文を書くために「推薦図書」を読まされるのが本当に苦痛で、「読まなきゃ」「書かなきゃ」というプレッシャーでますます本を読まなくなってしまいました。
でも昔ちょっとだけインターネット上で「日記」(いまでいうブログ)を書いていて、そのなかで本や映画を紹介していたら、「私も読みました」とか「その映画、面白そうだから今度観に行ってきます」といったコメントがつき、次第に訪問者数のカウンターが増えるのが楽しみになってきました。他の人の書評や映画評を読むのも楽しかった。でも、インターネットの世界は「危険がいっぱい」なので、もっと気軽に、子どもたちが「この本面白かったよ」と言い合える場を作りたいと思ったのです。
本当は掲示された「紹介文」に「いいね!」という投票ができるような仕組みも作りたかったのですが、とりあえず生徒たちが、友だちの書いた紹介文を読んだり、自分の書いたものが掲示されているのを嬉しそうに眺めたりしている姿を見るだけで、ほっこりとした気持ちになります。

保護者会でしつこいくらいに「読書ノススメ」を語っているのも、「紹介文」コーナーを作ったのも、できるだけいろんなジャンルの本に触れてほしいからです。でも、1冊の本を読み通すには時間がかかるし、本を買うのにはお金もかかる。図書コーナーに私たちの「オススメ本」が置いてあるのは、少し早く塾に来たときとき、友だちがエレベーターで降りてくるのを待っているそのほんの1~2分の間に、たった1ページだけでもいいから、いろんな本を手にとって読んでほしい・・・そんな思いのあらわれなのです。
「たくさん」の本を読むよりも、「いろんな」文章に触れてほしい。それは「言葉」を豊かにしてほしいから。1ページひもとくだけでも、あたたかい文章やクールな文章、やわらかい文章や硬い文章など、書き手によって文章の雰囲気が千差万別であることに気づきます。今風の話し言葉にあふれたティーンズ向けライトノベル、カタカナ言葉ばかりのビジネス書、難解な哲学用語が並ぶ思想書など、使われている「言葉」の種類が違うと、まったく違った雰囲気の文章になることもわかります。そんな多種多様な「言葉」を通して、著者が何を考えているのか、主人公がどんな性格なのかを読み解いていく。その喜びを味わってほしいのです。

いま映画館で『舟を編む』という映画が上映されています。三浦しをんさんの原作が面白かったので、私も先日観に行ってきました。この作品は、出版社に勤務する「人と会話するのが極端に苦手」な主人公が、「大渡海」という国語辞典を作成する部署に配属され、先輩や同僚や恋人とのふれあいのなかで、「言葉」の持つ力、すなわち「だれかを守り、だれかに伝え、だれかとつながりあうための力」に目覚めていく物語です。
「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かび上がる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう」。だから私たちは「海を渡るにふさわしい舟を編む」のだと、『大渡海』の編集者である松本先生は語ります(三浦しをん『舟を編む』27ページ)。
 
理解できる「言葉」が増えれば、「世界」が拡がっていきます。語り合える友が増えれば、人間関係が豊かになり、心が豊かになっていきます。結局、「学ぶ」ということは、言葉を増やし、世界を拡げ、心を豊かにしていくことなのでしょう。そして私たちの仕事は、灯台の灯で暗い海を照らし、闇のなかで彷徨っている舟や溺れかかっている子どもたちを発見し、救助することなのかも知れません。

先月から始めた「読書紹介文」キャンペーンは、「KM Book-Navi」という命名され、定期的に「読書紹介」を配布するだけでなく、いろいろな企画を進めていく予定です。
とりあえずその第1弾は「ゴールデンウィーク特別企画 読書感想文コンクール!!」。
(え゛? 読書感想文は大嫌いだって言ったじゃん・・・)
いえいえ、それはごく個人的な子どもの頃の話であって、ある程度長い文章を、原稿用紙の使い方をしっかり守って書くという練習は絶対に必要ですからね。
ただし「上手な文章」を書こうとせず、愉しんで、一生懸命書いてください。「紹介文」も引き続き募集します。ちなみに「紹介文」は「保護者からの投稿大歓迎」なので、子どもたちに読ませたい本や他の保護者の方にオススメしたい本がありましたら、投稿よろしくお願いいたします。