啓明舎(けいめいしゃ)|難関中学受験名門/『道具体験』の欠如

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『道具体験』の欠如

  子供たちに「自然体験」が欠如しているという指摘を否定する人はいない。ただ、都会で暮らす限り根本的な解決などありえないし、我々塾教師にできることは限られている。むしろ気になるのは、子どもたちの「道具体験」の欠如だ。

例えば、中学受験では「てこの支点・力点・作用点」に関する問題がよく出題される。はさみなら中央が支点、ピンセットなら中央が力点。ここまではわかるのだが、「栓抜き」になると途端に答えに詰まる(ちなみに中央が作用点)。「だって栓抜きなんか使ったことないもん」と言われると、返す言葉がない。

石油ストーブがある家も減っているから、給油用のポンプを知らないし、くぎ抜きを見たことのない子供も大勢いる。

せめて蒸気機関の原理くらいは理解させようと、「コーヒーサイホンの仕組みを調べてみよう」という課題を出したのだが、最近はサイホンを使う喫茶店などほとんどない。途方にくれていたら、塾の近くにあるラーメン店は1杯分ずつサイホンを使って、かつおだしをとっているという。スタッフがお願いして子供たちのための「ミニ社会科見学」を開いていただいた。

水が水蒸気に変わるときの体積膨張でお湯が勢いよく管をのぼっていき、火を消すと魔法のようにだしが下に降りてくる。店のカウンターに陣取った子供たちは食い入るように観察し、「初めて見た」「感動しちゃった」「ラーメンもおいしかった」と、写真やイラストを添えたリポートを書いてくれた。

サイホンは単純な装置だが、火力発電や原子力発電も根本的な原理は同じ。原発の危険性や自然体験の重要性を指摘するだけでなく、我々の日常生活を支えている科学技術の成り立ちと仕組みを理解させることから始めるべきだろう。

いつの日か画期的な代替エネルギーを開発した教え子が、「自分の研究の原点は、ラーメン店のサイホンでした」とインタビューで語る日がきたらうれしい。