啓明舎(けいめいしゃ)|難関中学受験名門/試練の1月入試、将棋の「神」の教え

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試練の1月入試、将棋の「神」の教え

すごい熱気…かなり緊張する「前哨戦」

すでに「1月入試」(埼玉の学校の入試や、首都圏以外の学校の東京会場入試)を経験した受験生も大勢いると思います。

 私が中学受験の世界に入ったころは、1月中に入試のある学校はほんの数校だけで、いきなり2月1日の「本番」(第1志望校の試験)に臨む受験生のほうが圧倒的に多かったのですが、いまでは、栄東中のA日程入試(1月10日)だけで受験生が5000人以上。1月中に最低1~2校は受験するのがもはや「中学受験の常識」になってしまいました。

 私もさっそく入試の激励に行ってきましたが、受験生の数もさることながら、塾の応援もすごい熱気でした。

 これまでいろんな模擬試験も受けてきた皆さんでも、またそれが進学する意思のない、いわゆる「試し受験」の学校だったとしても、やはり人生はじめての入学試験はかなり緊張したのではないでしょうか。そして、すでに生まれてはじめて「不合格」の通知を受けて落ち込んでいる人も、予想外の好結果にちょっと「浮かれて」いる人もいるはずです。

将棋界の「スーパースター」谷川十七世名人

 私は昨年末、日本将棋連盟の会長であり、「17代永世名人」でもある谷川浩司九段とお目にかかることができました。

 (※将棋には「名人位」を含めて「7大タイトル」といわれる7つの大きな大会があるのですが、「名人位」は、そのなかでも最も権威のあるタイトルで、そのタイトルを5回以上獲得すると「永世名人」の資格をえることができます。昭和27年にこのような制度ができて以来、「永世名人」の資格を得たのは、たったの6人だけしかいません)

 いまは、谷川十七世名人より10歳ほど年下の「羽生世代」と呼ばれる人たちや、さらに若い世代の棋士たちが活躍し、主なタイトルを独占していますが、谷川十七世名人は中学2年生のときにプロ棋士としてデビューし、わずか21歳、史上最年少で「名人位」を獲得しました。私たち50歳代の人間にとっては、将棋界の「スーパースター」、いや「神」に等しい存在なのです。

 そんな「スーパースター」(ないし神)にお目にかかるチャンスを頂いただけで、天にものぼる心持ちだったのですが、谷川十七世名人は本当に穏やかで、やさしくて、しかもお話の上手な素敵な方でした。

「『負けました』と、頭を下げられない子は強くなれない」

 谷川先生のお言葉のなかで一番心に残ったのは、「『負けました』と、頭を下げられない子は強くなれない」という言葉です。 

 「すべては礼に始まり礼に終わる」。これはどんなスポーツでも、勉強でも同じです。まず「よろしくお願いします」と頭を下げ、「ありがとうございました」と頭を下げる。

 でも、将棋の場合は、もうひとつの「礼」があります。将棋は野球やサッカーのように「得点」で勝敗が決まるわけではありません。審査員の評価で勝ち負けが決まるわけでもありません。「これ以上続けても絶対に勝てない」と察したときに、自分から「これ以上指す手はありません。負けました」といわなければ、試合は終わりません。

 自分から「負けました」と認めるのは辛いことです。谷川先生も子供のころは「負けました」が言えず、悔しくて駒を投げつけたり、駒を噛んだりしたそうです(その歯形のついた駒をいまでも大切にもっていらっしゃるそうです)。

 でも、自分で自分の負けを認めることによってひとつの戦いが終わる。「なぜ負けたのか」を反省し、「次こそは負けないぞ」という決意を新たにする。すべては「そこ」から始まるのです。

「史上最年少名人」から追われる立場へ…4冠から1冠への後退

 谷川先生は、決して順風満帆の将棋人生を過ごしていらっしゃったわけではありません。

 将棋を始めたころは、5歳年上のお兄さんになかなか勝てず、悔しくて駒に歯形をつけていました。中学生で奨励会に入り、プロデビューしたころは、「なんだ、この若造が」と目の敵にされて連戦連敗を続けたこともありました。

 やがて「史上最年少名人」になり、順調に実績を重ね、29歳のとき(1991年)には史上4人目の「4冠」を獲得しますが、今度は自分が追われる立場になりました。羽生善治さんを筆頭とする「羽生世代」という新しい棋士世代が登場し、彼らに追われ、追い越されて、1994年には「王将」を除くすべてのタイトルを「羽生6冠」に独占されてしまいます。

阪神・淡路大震災に被災…故郷へ勇気を届けたタイトル死守

 最後に残った「王将戦」に負けたら、自分はすべてのタイトルを失う。世間は「羽生7冠誕生確実か」と騒いでいる。しかもその大切な王将戦の最中に、谷川先生は故郷・神戸で「阪神・淡路大震災」に被災します。

 とても将棋に専念できるような状況じゃない。故郷の人々が震災の被害に苦しんでいる。でも谷川先生は、「自分にできることは、将棋を指すこと」「将棋を指すことを通して、苦しんでいる神戸の人たちに勇気を与えること」だと決意し、圧倒的に不利といわれた「王将戦」を勝ち、「羽生7冠」の誕生を阻止したのです。

 「負けたとき」に悔しい気持ちをこらえて「負けました」という。「もう駄目だ」と思ったときに、「なにくそ」と奮起する。心が折れそうなときに、勇気を奮い立たせて、新たな一歩を踏み出す。谷川先生に限らず、いや将棋の世界に限らず、どの世界でも、トップで活躍している人たちはみな、そのような経験を重ねて、いまの位置にいるのです。

失敗から得られる「経験」と「教訓」…人生の貴重なチャンス

 1月入試で「失敗」した皆さん。「こんなんじゃ、絶対第1志望になんか受かるはずがない」と落ち込んでいる君たち。自分の失敗を認め、その悔しさを心のなかに受け止めなさい。すべてはそこから始まります。

 もし、順調に「合格」を続けている人がいたら、むしろ警戒しましょう。「成功」から得られるのは単なる「喜び」ですが、「失敗」から得られるのは「経験」と「教訓」です。2月の「本番」に向けて、「喜び」を続けた受験生と、「経験」や「教訓」を積み重ねた受験生の、どちらの方が強いと思いますか?

 いずれにせよ、1回1回の入試を、自分の人生にとっての貴重なチャンスとして、思い切り楽しんでください。試験会場で緊張する、合格掲示に自分の番号を見つけて感動する、不合格の報を受けてがっくり落ち込む。すべてが君たちの人生にとって、忘れることのできない大切な思い出になるはずですから。

 でもやっぱり、このコラムの読者の皆さんには、全員第1志望に合格してもらいたいですけどね!