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わが子を前向きにさせる“魔法の言葉”

このコラムが掲載される頃には、東京・神奈川の中学受験生にとっては「前哨戦」ともいえる、関東近県の中学や寮のある学校の「東京会場入試」が終わっているはずです。そこで合格の喜びを味わったり、不本意な結果に打ちのめされたりして、いまは1月下旬の千葉入試や、2月1日から始まる「本番」に向けて、最後の追い込みに専念していることでしょう。

今回のテーマは「前哨戦の結果をどのように受け止めるべきか」。

中学受験事情の異なる他府県の読者の皆さんにはピンとこない点もあるかもしれませんが、高校受験や大学受験の場合にも共通する「受験直前期の心構え」として読んでいただければ幸いです。

1月入試の三つのメリット

33年前、私がこの仕事を始めた頃は、1月中の「前哨戦」に挑む生徒はごく僅かでした。ところがいまは、先日(1月10日)の栄東中A日程試験だけで受験者が6400人以上!首都圏の中学受験生が約4万人と言われていますから、凄すさまじい高率です。埼玉だけでも1回の試験で1000人以上の受験生を集める学校が他にも数校あるのですから、もはや1月受験は「首都圏中学受験の常識」といっても過言ではないでしょう。

1月入試が「定番化」したことのメリットは、いくつもあります。

第一に、2月1日の「本番」で「緊張して全然できなかった」という泣き言は、ほとんど耳にしなくなりました。所詮は12歳の子どもですから、これまで「これで自分の人生が決まるかもしれない」という経験をしたことはほとんどありません。だから1月中に、試験前夜の高揚感と当日朝の緊張感、そして合格の喜びや不合格の悔しさを何度か味わうことは、とても大切な経験になります。

第二に、千葉・埼玉などの通学可能圏や全寮制の学校に「進学意志」がある場合は、その合否結果に応じて、2月入試の受験作戦を変更することができます。例えば1月中に「第3志望」の合格通知を手にすることができたなら、あとは「第2志望以上」の学校だけを受験すればいい。思うような結果が得られなければ、「おさえ」の学校を変更したり、追加したりすることもできます。

1月入試の結果を受けて「最終面談」をしなければならないので、私たちの仕事は増える一方ですが、「選択肢」が増えるのは受験生にとっても保護者にとっても、そして学校にとってもありがたいことです。

大切なのは「結果」の受け止め方

とはいえ、「メリット」ばかりではありません。

1月入試の結果を、いくつかのパターンに分類してみましょう。

たとえば「チャレンジ校」(合格可能性20%以下)をA校、「実力相応校」(合格可能性50%程度)をB校、「合格確実校」(合格可能性80%以上)をC校とします。想定できる結果としては、

 (1)A校に合格した場合
 (2)A校は不合格だったが、B校には合格した場合
 (3)B校は不合格だったが、C校には合格した場合
 (4)C校まで含めて「全滅」した場合

以上の四つが想定できますね。

それぞれについて、どんなリスクや問題点が考えられるかを順にみていきましょう。

「(1)A校に合格した場合」

例えば埼玉の「浦和明の星」や千葉の「渋谷幕張」は、東京在住でも第1志望校にする受験生が少なくない超人気校です。だから思いもよらぬ合格通知を手にすれば、有頂天になるのも無理はありません。その結果、本来の第1志望校に向けての熱意や緊張感が薄れてしまったり、「もう受験はやめる。A校に行く」と言い出すケースも少なくありません。

それはそれで一つの決断なのですが、例えば通学時間が1時間以上ともなると、6年間電車のなかで過ごす時間は半端ではありませんし、毎朝早起きをしてお弁当を作るママも大変です。もちろん私たちは、予定通り2月まで受験を続けて、最終的に合格した学校の中から、実際に進学する学校を決めるようにアドバイスします。

しかし「超人気校」に合格した喜びと、早く受験勉強から解放されたい一心で、全然勉強に身が入らない。こんなとき、我が子にどんな言葉をかけるべきでしょうか。

「(2)A校は不合格だったが、B校には合格した場合」

これが実は一番「良好」なパターンです。「少なくともB校の合格通知を手にしたのだから一安心。でもA校に合格できなかった無念を、絶対に2月の入試で挽回してやる……」。まあ、わかりやすいというか扱いやすいメンタリティーですよね。

だから、保護者会ではいつも「1月は1勝1敗がベスト」だと話しています。2月入試で予想以上の結果を出してくれるのも、このパターンです。ただし試験を受けたときの「B校」の印象があまりに良すぎて、(1)の「有頂天パターン」に移行してしまうケースもあるので要注意です。

「(3)B校は不合格だったが、C校には合格した場合」

「1勝1敗」という意味では(2)と同じなのですが、「たぶん受かるんじゃないかな」と思っていたB校に合格できなかったことで、自信喪失になる場合があります(親も子も)。その結果、「どうせE校(本来の第1志望)なんか受かるはずがない。いや第2、第3志望だって危ないかも」と疑心暗鬼になり、せっかくこれまで対策を積み重ねてきた志望校を変更しようとする。しかし残り2週間やそこらで、別の学校に向けて気持ちを切り替え、改めて過去問対策を始めても、良い結果が得られるはずはありません。

逆に、お父さんが「B校さえ受からないのなら、もう公立中学でいいじゃないか。一応C校は受かったんだから『全滅』じゃないんだし」などと激怒してしまい、チャレンジ校ばかりを受験する場合もあります。一番危険なのは、このケースです。

さあ、このような自信喪失状態の親子や、お怒りモードのお父さんに、私たちはどう対応するべきなのでしょうか。

「(4)C校まで含めて「全滅」した場合」

「1月全滅」でようやく「このままじゃマズい」とはじめて実感し、ママの布団のなかで一晩じゅう大泣きをしたあと、結果的に2月の受験で全勝する受験生が毎年何人もいます(基本的にすべて男子)。

冷静に状況を受け止め、場合によっては合格確実な「滑り止め校」を受験させて、気持ちを立て直すことができれば、予想以上によい結果を得られることがあります。しかし、「非常に厳しい状況」であることは間違いありません。

最悪なのは、「もう受験なんかしない」(子)・「どうせどこも受からないのだから、やめさせる」(親)と、受験自体を断念してしまう場合。こんなときには、どういう言葉を投げかけるべきなのでしょうか。

語るべき言葉は一つだけ

このコラムが読まれているころ、私たちは(1)~(4)の各タイプの保護者、生徒、もしくはその両者と、電話で話したり、個人面談をしたりしているはずです。

大きく四つにタイプ分けはしましたが、保護者の教育方針・子どもの性格・学力・志望校などは千差万別ですから、できる限り保護者の希望を叶かなえ、想定しうる最良の受験をさせるために、受験パターンを微調整し、そのための対策を講じます。

でも、有頂天になっているタイプ(1)(および(2)の一部)、自信喪失気味のタイプ(3)、自暴自棄のタイプ(4)、すべての生徒に向けて最初に発する言葉は心に決めています。

「お前はどの学校に合格するためにこれまで頑張ってきたんだ?確かにA中に合格したのは立派だった。でもたった1回の成功で満足するな、このバカチン!最後の最後まで走り続けて、全部の学校に合格しなかったら、二度と塾には出入り禁止だ!」

「B校に合格できなかったのは確かに悔しかっただろう。でも、合格から得られるのは単なる『喜び』だけだが、不合格から得られるのは『反省』と『悔しさ』だ。合格に喜び浮かれている奴やつと、悔しさをこらえて立ち直ろうとしている奴が、もし次に戦ったらどっちが勝つと思う?わかったか。だから、泣きたかったら全部終わってから、喜びの涙を流せ。このバカチン!」

「C校に合格できなかったのは、お前が『奇跡の大逆転のヒーロー』になるための、お膳立てみたいなもんだ。でも、もしここで諦めたらただの負け犬だぞ。自分を信じて、俺たちを信じて、最後に父ちゃんと母ちゃんを泣かせてやれ、このバカチン!」

要するに大切なのは、成功も失敗も、喜びも悔しさも、「次に向けての糧」、人生における貴重な体験として受け止めることができるかだ。大切なのは「過去」ではなく「明日」なんだ。

……ということを、少し表現を変えて語っているだけであり、「このバカチン!」は単なる「オマケ」に過ぎません(このセリフを「オマケ」として付け加えた理由は、あとで述べます)。

でも、中学受験に限らず、人生の岐路というのは、すべてそういうものではないでしょうか。

人間が大きく成長するのは、決まって「痛恨の敗北」や「ありえないような失敗」に打ちひしがれ、もがき苦しみ、そこから立ち直るための第一歩を踏み出そうとしたときだと、私は思います。

むしろ何の挫折や失敗も経験せずに「超一流校」に合格してしまった場合のほうが、「あとのしっペ返し」が怖い。「12歳の成功ほど怖いものはない」というのは、私をこの世界に導いてくれた大先輩のセリフですが、まさにその通りだと思うのです。

ヒヨコたちの第一歩のために

まして12歳という年齢は、子どもが「親離れ」を始め、親が「子離れ」を始めるべき時期です。

これまで親鳥のあとをトコトコついていくだけだったヒヨコが、自分1人で歩き出すべき時期を迎える。歩き出してみたのはいいものの、すぐに転んだり、道に迷ったりする。

親鳥に口出しされると、「せっかく自分で歩こうとしているのに」と反発する。

でも、まだ1人立ちはできないから、その悔しさを「反抗期」という形で親鳥にぶつけたりもする。ちゃんと歩けるようになると、嬉うれしくて有頂天になり、大きな失敗をしでかすこともある。

でも、本当は「よしよし。上手に歩けるようになったな」と、親鳥に認めてもらうことが一番嬉しい。そんなもどかしい成長の過程を、見守り続けるのが親鳥の務め。でもついつい……。

「ほら、そこは危ないから……。あ~あ、だから言ったでしょ!」などと言ってしまう。

「勝手に歩いていっちゃダメでしょ?いいから黙って私のあとをついてきなさい」などと口にしてしまう。

その気持ちは痛いほどわかりますが、それではヒヨコはいつまでも、1人で歩きだすことができないのです。

「このバカチン!」というセリフは、一昨年TBSで放映された『重版出来!』というテレビドラマの最終回で、マンガ雑誌編集者の黒沢心(出演=黒木華さん)が、新人漫画家の中田伯(出演=永山絢斗さん)に、投げかけてしまうセリフです。

「編集者のヒヨコ」である黒沢心は、はじめて自分が発掘した「漫画家のヒヨコ」である中田伯をなんとかデビューさせようとして、まるで母鳥のように小まめに気遣いをし、全力で応援します。中田くんも実は、黒沢さんのことを「僕を見つけてくれた女神さま」だと慕っているのですが、幼少期に受けた虐待のトラウマから、「ちゃんと食事をして睡眠をとってください。みんな中田さんのために頑張ってくれているんです」と「母鳥目線」で説教する黒沢さんに、「僕のことを支配しようとするな!」と暴言を吐いてしまう。

そんなシーンのなかで、黒沢さんが、どうしても我慢できずに、でも本当は心からの愛情を込めて投げかけてしまう言葉が、「このバカチン!」なのだと、私は勝手に解釈しています。

そのシーンがあまりにステキだったので、amazonprimeで10回以上観みてしまい、「今年の決めゼリフ」に決めました。よろしければドラマをご覧いただき、もしお気に召したなら、受験生のヒヨコ=我が子に、万感の思いを込めて、ぶつけていただければと思います(笑)。

繰り返しになりますが、大切なのは「明日」に目を向けさせること。そして「残された日々」を全力で歩き続けることです。

1月入試の成否と2月入試の成否のあいだには、必ずしも有意な相関関係はありません。多数のデータを統計処理すれば、やはり十分な学力を身につけている生徒はきちんと1月入試でも成功し、無事第1志望にも合格しているケースのほうが多いでしょう。しかし「真逆」の結果、つまり1月入試で失敗して2月の第1志望に合格できた、もしくは「その逆」のケースが少なからずあることも事実です。だから最後まで諦めず、勇気を奮い起こして、「親鳥」としての務めを果たしましょう。

何よりも、幼いヒヨコたちがはじめて厳しい現実に直面したときに、親鳥(および私たち)はどんなふうに接し、どんな言葉をかけてあげられるのか。たぶんそれこそが、中学受験を通して得た、一番の宝物になるのではないかと、私は思うのです。