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めぐりあった学校と「相思相愛」になろう

中学入学を間近に控えた皆さんへ

「冬来たりなば春遠からじ」。新中1の皆さんは、「受験勉強」という長い「冬」を乗り越え、いまはおそらく満開の桜の下で、まもなく訪れる入学式、そして新たな学校での生活を心待ちにしていることでしょう。

ただ、「ずっと憧れていた第1志望」の学校に入学できるのは、受験生全体のほぼ3割というのが通説ですから、残りの7割のなかには「ちょっぴり悔しい思い」を抱えていたり、「どうして自分だけ……」といまだに痛恨の思いを引きずっていたりする人も、いるかもしれません。そこで今回は、「中学校生活を始めるにあたっての心構え」を語ることにします。

1人の進学者に対し礼を伝えにきた若い先生

先日、A女子校の若い先生からお電話を頂戴しました。

「たくさんの私学の中から、貴塾のBさんに本校を選んでいただき、ご入学していただくことになりました。つきましては御礼をかねてご挨拶に伺いたいと思って、お電話させていただきました」

今年の卒業生2百数十人のなかで、A校を受験したのはBさん1人だけ。つまり「受験者1・合格者1・進学者1」ですから、「わざわざご足労いただかなくても……」と遠慮したのですが、結局、訪問を受けることになりました。

Bさんは新3年生で入塾してから1年間、担任として指導した子です。しかしその後、成績は低迷を続け、お母さんから何度も「もう受験は諦めようかと思うんです」という相談を受けていました。でもBさんもお母さんも最後まで諦めず、「ずっと憧れていた難関校のC校」には届かなかったものの、「事実上の第1志望」であるA校に合格できたのです。しかもそのたった1人の進学者のために、わざわざ挨拶にきてくれるなんて、やっぱり嬉うれしいじゃないですか。

A校は古い伝統をもつ名門女子校。都心の一等地にありながら飾らない素朴な校風が好きだったのですが、女子の共学校志向や私学間の競争激化のなかで、最近は大幅に志望者を減らして苦労しているようです。

他の仕事がたまっていたのですが、Bさん母子の笑顔を思い出しながら、「私たちもいろいろな試みを続けているのですが」と自校の窮状を打ち明ける若い先生と、ついつい小1時間近く話し込むことになりました。

生徒主体の学校説明会が主流に

最近の学校説明会では、「校長と入試担当が話をして、学校紹介DVDを流し、あとは校舎見学をしてオシマイ」ではなく、在校生と現場の先生が学校生活のようすを語るといった試みが増えており、参加者からはおおむね好評を博しています。ある男子校では土曜日開催の「ミニ説明会」を、企画から運営まですべて生徒にやらせたりもしています。

A校でも、土曜日開催の学校説明会では、参加した保護者をいくつかのグループに分け、在校生が校舎案内しているそうです。

「校舎見学のあいだに、案内役の生徒に色々と質問もできるので、参加者からは好評ですし、案内役の生徒たちも、ちょっと照れくさそうな表情をしながら、『きょうはこんなこと聞かれちゃいました!』と嬉しそうに報告してくれるんですよ!」

「それはとてもいい試みですね。でも、土曜日は授業がないから、ただ施設を見学するだけですね」

「ええ、平日の説明会は、私たち教師が校舎案内をしています。生徒は授業中ですから」

「でも保護者は、本当はふだんの授業の様子や生徒さんの姿を見たいと思っていますよ。でも平日の説明会だと、生徒は授業中か……。じゃあ、こうしたらどうですか?例えば月に1回説明会があるとしたら、5月は中2A組、6月は中2B組というようにローテーションを組み、その日の4時間目は『特別活動』の時間ということにして、担当クラスの生徒がチームを作って、校舎案内を担当する。リーダー役を選んで、校舎見学のルートを決めたり、手作りの案内図を作ったり、いろんな工夫をするのも各クラスの生徒に任せる。参加者にアンケート用紙を配って、一番評価の高かったクラスを表彰するのもありかな?いや、アンケートの『参加者からの声』を読ませてあげるだけでも、生徒たちは喜ぶと思いますよ」

「あ……、それはたしかに面白いですね」

「コミュニケーション教育って、教師と生徒や生徒同士だけじゃダメだと思うのですよ。学校見学に来てくれる保護者を案内するには、なにより母校のことをちゃんと知っておく必要があるし、身だしなみや言葉にも気を使わなければならない。校舎見学のルートを工夫したり、質問に対する想定問答を考えたり。授業見学のルートに入っている担当の先生に『できるだけ盛り上がる授業をお願いします』なんて『事前折衝』をしたり。けっこう大変だと思うけれど、そうやって自分の学校のことを、ちゃんと調べ、チームで協力しあって、それで参加者の方々の『ふだんの学校のようすがよくわかりました』『とても楽しかったです』なんてアンケートの感想を読んだら、絶対に嬉しいと思うんですよね」

「ありがとうございます。さっそく校内で検討させていただきます」

大好きだった女子校が突然共学化

 

これは、そのときふと思いついたことを口にしただけで、学校ごとにいろんな制約があるでしょうから、実現できるかどうかはわかりません。でももし成功したら、楽しい学校見学会になると思いませんか?

 

実はこの「アイデア」は、学校説明会を成功させるため(だけ)の思いつきではありません。

私が考えたのは、もしこの企画が実現したら、「校舎案内プロジェクト」(?)に参加した生徒たちが、少しでも学校のことをよく知り、母校のことを少しでも「好きになる」きっかけになるのではないか、ということです。誰もが第1志望校に進学できるわけではない。だったら、少しでも進学した学校を好きになって、学校生活を楽しんでほしいじゃないですか。

A校の先生と話をしながら、私は以前「第4志望」のD女子校に進学したEさんのことを思い浮かべていました。

正直なところ、Eさんの成績からすると「残念な」受験結果でした。でも彼女は、「D校に進学することになった以上、もっとD校のことを好きになってやろう」と決意したのだそうです。

D校の学校説明会では、いつも冒頭に20人ほどの中学1~3年生が「英語劇」で学校紹介をしてくれます。Eさんはその出演者オーディションに挑み、けっこうな高倍率の競争をくぐり抜けて選ばれました。しかも出演チームは二つか三つあって、学校側がローテーションを組むのですが、Eさんは「啓明舎対象の説明会に必ず出演できるようにローテーションを変更してくれ」と校長先生に直談判までしたのです。私が毎年D校の説明会の引率を買って出るのは、ひとつには成長していくEさんの英語劇を見続けるためでした。

ところが1年前、Eさんが血相を変えて私たちの塾にやってきました。

「後藤先生、D校が来年から共学になるって、知ってた?」

「うん、まあ。D校の先生から連絡もらってたから……」

「ありえないよ~。私、女子校に行きたくて中学受験したのに……。もう信じられない。私、転校する!!」

Eさんはさんざん怒りをぶちまけたあげく、最後は泣きだしてしまいました。私はD校の先生方の長年の努力もさまざまな苦労も、今回の決断にいたった事情も少しは知っています。でもそれはEさんには話せないし、話しても何にもならない。だからEさんの怒りと涙を黙って受け止めることしかできませんでした。

しかしスゴイのは、ここからです。2週間ほどして、またEさんが塾にやってきました。

「先生、私、D校に残る。決まったことはもう仕方ないんだし。私、D校の応援団長になる。だから先生、たくさん後輩を送ってね!!」

実際、彼女は昨年「文化祭実行委員長」をつとめ、D校のために汗を流したのです。

「運命のめぐりあい」を大切にする

Eさんは決して社交的な子ではなく、むしろ地味でおとなしい子でした。でも「せっかく入った学校なんだから、たとえどんなことがあっても、絶対に学校を好きになって、学校生活を全力で楽しむんだ」という強い思いが、彼女を成長させたのでしょう。

もう私が何を語りたいのか、読者の皆さんにはおわかりだと思います。

誰もが羨む超難関校に合格したのに、中1の4月から不登校を続けている子の話もよく聞きます。他方で、Eさんのように、いつも前向きに生きようとしている子もいます。

中学受験に限らず、大学受験や就職、結婚も同じでしょう。できるだけいい大学に入って、いい会社に就職して、ステキな人と結婚したいと願うのは、誰でも同じです。でも一番大切なのは、結果的にめぐりあった「縁」を大切にすること。自分の不幸を嘆いたり、誰かのせいにして恨んだりするのではなく、「めぐりあった相手」を理解し、好きになろうとすること。

学校の先生たちも、君たちに「学校を好きになってもらおう」と願い、いろんな努力をされています。じっくり時間をかけて、互いをよく知り合い、不安や不満があればはっきりと言い、そのうえでお互いをもっと好きになるための努力をすれば、きっとすてきな6年間が過ごせると、私は信じています。