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大学の新入試基準「e-ポートフォリオ」に物申す

いま、高校の教育現場では「大騒ぎ」になっているにもかかわらず、教育関係者以外にはほとんど知られてない、大きな教育改革の動きがあります。それが「e-ポートフォリオ」(JAPAN-e-Portfolio)。「文部科学省大学入学者選抜改革推進委託事業主体性等分野」という部署が進めている事業です。

簡単にいうと、高校での課外活動の記録を生徒一人ひとりに与えられた「マイページ」に入力し、そのデータベースを大学側が入学選抜基準の一部として利用するというシステムです。「課外活動」には「探求活動」「生徒会・委員会」「学校行事」「部活動」「学校以外の活動」「留学・海外研修」「表彰・顕彰」「資格・検定」の8項目があり、活動記録や取得した資格などを入力するフォーマットや、研究発表の内容をアップロードする仕組みができていて、すでにかなりの数の大学が「合否決定のデータとして採用する」ないし「参考資料として活用する」と「参加表明」をしています。

そもそも「主体性等分野」って何?

「2020年からセンター試験が変わる」「英語は4分野が評価される」(「話す力」が問われる)という話は誰でも耳にしたことがあるでしょう。それは、もっと大がかりな「高大接続改革」計画の一部に過ぎません。試験の形式も確かに変わるけれど、高校でも大学でも「主体的、対話的、かつ深い学び」(いわゆる「アクティブラーニング」)を進めていくべきである。だから、その間を「連携」する大学入試でも、「主体性等」を評価する基準や尺度を取り入れていきましょうということなのです。

いま、8割近くの大学が「AO(アドミッション・オフィス)入試」を取り入れています。つまり、すでに大学入試のかなりの部分は、ペーパーテストの点数ではなく、スポーツや留学経験などのさまざまな活動記録、つまり「主体性等分野」を評価基準として実施されています。ところが、高校から提出される調査書や本人の書いたエントリーシートに、「英検2級」とか「生徒会書記」とか「バドミントン総体2位」という記載があっても、実は英語の検定試験だけでも3種類あるし、「総体」だけでは何の大会かが特定できません(「全国高等学校総合体育大会」が正式名称)。そうした項目を予あらかじめプルダウンメニューとして設定することで正確なデータを集約し、「テストで測られる学力以外に、どんな『主体的な学び』をしてきたのかを、より信頼性のあるデータに基づいて評価するための仕組み」として考案されたのが「e-ポートフォリオ」なのです。

高校側の受け止め方は……

実は、私が「e-ポートフォリオ」を知ったのも今年になってからで、それ以来、私学の先生方とお話しする機会があるたびに、「e-ポートフォリオ」についての意見を伺いました。

すでに活用準備を始めている学校もあれば、「あんな怪しいものは使う予定はない」という学校もありました。

「入試への利用については疑問だが、生徒の活動履歴を記録するシステムとして利用する」という意見もありましたが、元々「大学入学者選抜改革推進委託事業」の一部として進められているわけですし、参加表明をしている大学もどんどん増えているわけですから、「ウチでは使わない」とか「データベースは利用するが、大学側には提出しない」というわけにはいかないでしょう。おそらく、「AO入試」のほとんどは、いずれこのシステムを取り入れるようになるはずです。

容易ではない部活動や生徒会活動の点数化

「e-ポートフォリオ」の運用上の問題(例えば、記入するのは生徒なのか教師なのか、どうやってデータの信頼性を担保するのかなど)についてはまだ不明な点が多すぎます。ただ、私は、中学入試に関しては「テストの点数で合否を決める従来の入試制度」と並行して、「新傾向入試」を応援する発言をしてきましたし(関連記事)、せっかく志望校に進学した教え子たちがこぞって「東大や医学部合格のための予備校」に通うより、もっと多種多様で、豊かな6年間を過ごしてほしい。そのための「主体性等評価」には決して反対ではありません。

しかし、もし「e-ポートフォリオ」が本格的に「大学入学者選抜」に活用されるとしたら、私なりにいくつか「物申したいこと」があります。

第1に、どうやってさまざまな活動を「点数化」するのか。例えば「部活動」の評価基準として「全国大会出場など」と書かれていますが、例えば甲子園大会に出場したとして、エースとして活躍した選手と、ずっとベンチにいた控え選手やベンチ入りすらできなかった選手をどう評価するのでしょうか。大学受験で有利になるから「強そうな部活を選ぶ」みたいな風潮になることへの危惧もあります。

また、「生徒会活動」の評価も気になります。先日、ある女子校の「応援団」の練習風景を取材に行きましたが、毎日放課後2時間、日曜日は午前9時から午後4時まで、高3の団長・副団長やOBに体育祭の本番まで2か月以上指導されると聞いて驚きました。でも、汗だくで、白目をむいて、声をからして練習する高1・2生も、その指導をする団長やOBも、最高に素敵でした。

もし、「応援団長」という経歴が「e-ポートフォリオ」に組み込まれ、大学進学に有利になるとしたら、「あんなに本気で、たぶん将来何の役にも立たない、人生のすべてをかけたかのような盛り上がり」は生まれないような気がするのです。「何の意味もないからこそ、思いっきりバカになりきれた経験」だからこそ、一生忘れられない思い出やいつまでも続く先輩や仲間や後輩との絆が生まれるのではないでしょうか。

「人を評価することの難しさ」を忘れないで

「e-ポートフォリオ」は文科省肝いりのプロジェクトですから、たぶん実際に運用が始まるのでしょう。うまく機能するかどうかは、運用する主体(高校と大学)のインテリジェンスの問題だと思います。少なくとも、「システムを完璧にすれば、正しい評価と選抜ができる」なんて思い上がらないでほしい。高校生活を豊かなものにする試みは進めてほしいけれど、それを点数化して進路決定の資料にすることについては、極力慎重に検討してほしいと思います。

ここからが、ようやく「本題」です。

個人的に、「公立中高一貫校」を志望することをあまりお勧めしていません。それは「小学校の調査書」の点数が合否に大きく影響するからです。子どもたちの学習の成果以外の要素で合否が左右される受験は、受験指導の現場の人間としては、あまり受けさせたくありません(あくまでも「個人的な」こだわりですが)。また、「志望校に受からなかったら、近くの区立中に進学して高校入試」と主張する保護者には、できる限り「納得して通わせることのできる併願校」を探し、その学校の合格通知をもらった上で、「それでも区立中~高校入試という道を選択するかどうか」をじっくり考えるように、アドバイスしています。それは一つには「頑張って塾に通い続けて、『ここまではやり遂げることができた』という達成感を与えてあげたいから。そして、「高校受験はそんなに甘いものではない」からです。

都立高校入試は2016年度から「入学試験:内申点=7:3」と内申点の割合が下がりましたが、そのかわりに、音楽、技術家庭、美術、保健体育の4教科の内申点(5段階評価)は英数国理社の5教科の2倍に換算されます。多くの私学は高校募集を停止ないし定員を削減しているので、内申点の低い生徒はどんなに頑張って受験勉強をしても、志望する高校に進学できる保証はまったくありません。

要するに私は、小学校や中学校の内申点が大きな割合を占める選抜形式が「嫌い」なのです。何よりもずっと「引っかかり」続けているのが、02年以来「観点別到達度別絶対評価」が採用され、その「観点」の一つに「関心・意欲・態度」という評価基準が含まれていることです。

もし、ある生徒に「学ぶ意欲がない」と感じたら、まず「自分の授業がつまらないからではないか」と自問すべきだと思っています。30人近い生徒の、各科目に対する意欲や関心を評価することなど、私にはとてもできません。「関心・意欲・態度」の評価を上げる(つまり担任の先生の「お気に入り」になる)ためのアドバイスを指南しているサイトもありますが、読んでいると気分が悪くなってきます。

私たち自身も、テストの点数や授業態度で生徒を「評価」し、それに基づいて受験校のアドバイスもします。他方で、会社内で「人事考課」をしたり、採用面接もしてきました。人が人を評価するのはとても難しく、重い責任を負わざるをえない仕事だということを、常に実感しています。だからいろいろな立場の意見を吸い上げた上で、e-ポートフォリオの運用方法や「内申点制度」の妥当性について、じっくり再検討されることを、心から願っています。