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人と人の「縁」がもたらす受験生と学校の出会い

きっかけは1冊の本、新たな学校見学会の開催へ

昨年、私たちの塾では、20校の私学で小規模な学校見学会を開催しました。そのうち、見学会を初めて実施した学校と、久しぶりに再開した学校が合わせて4校あるのですが、いずれも今年の入試で受験者数を大幅に増やしました。見学会を開催するのは、私が「応援したい」と思った学校なので、自分の学校を見る目が正しかったことが証明されたような気がして、少しうれしくなります。

ただ、そのうち3校は、私の目で選んだというより、偶然の出会いなどの「縁」が結びつけてくれた学校でした。

ちょうど1年前、古本販売チェーン「ブックオフ」の100円コーナーで平田オリザさんの青春小説「幕が上がる」(講談社文庫)を手にしたのが、「縁」の始まりでした。何度も涙を流しながら読み返し、それから平田さんの「演劇ワークショップ」の動画をYouTubeで見て、さらに感動し、「こんな素晴らしい教育実践をしている私学はないものか」と相談したのが、実は古くからの友人であり、「マナビレンジャー合格への道」の執筆者でもある首都圏模試センターの北一成さんです。

北さんは、海城の「ドラマ・エデュケーション(DE)」(詳しくは「今だからこそ求められる国語力と対話能力の育成(中学受験サポート2018年10月) 」をご覧ください)で、ゲストとして「生徒から取材を受ける役」を引き受けたこともあるというご縁で、海城の中田大成先生を紹介していただきました。そして中田先生とお話した際に、「最近は女性の校長先生が活躍されている学校が多いですね」という話になり、「一度は会っておいた方がいいですよ」と勧められたのが、成蹊の跡部清(さやか)校長先生と大妻中野の宮澤雅子前校長先生だったのです。

彼女たちとの出会いがきっかけで、私たちの塾は昨年、成蹊(東京都武蔵野市)で初めての学校見学会を開催し、大妻中野(東京都中野区)では十数年ぶりの見学会が実現しました。

時流に流されない「こだわり」、塾生たちが選んだ進学先は

成蹊は、私たちの塾の小石川本校がある東京都文京区からは遠く、これまで受験する塾生は数年に1人程度でしたので、実は訪問するのも初めてでした。跡部校長先生のお人柄やお話に感銘を受けるとともに、素晴らしいキャンパス、明るい表情で気さくに声をかけてくれる生徒たちにも感心しました。

生物室を埋めつくす無数の動物の飼育箱のなかには珍しい毒グモがいました。「本物を観察すること」を大切にする教育方針のあらわれです。さらに、大学から深海魚の専門家を招き、何種類もの珍しい深海魚を実際に目で見て、手で触れるだけでなく、最後は調理実習で「深海魚の煮込み」を作って実食するという「こだわり」に、私は目からウロコが落ちる思いでした。

成蹊は日本で初めて「帰国子女」のための特別クラスを設置した学校であり、校内に大勢の留学生がいる「グローバル」な学校のパイオニア的な存在なのですが、それを大げさに宣伝しない。跡部先生からいただいたメールの中の「今風にデザインされた教育ではないかも知れません」という言葉が、私は大好きです。

成蹊の学校見学会には80人近い保護者が参加し、結局、私が塾で担当した新宿校の30人弱の受験生のうち、4人が成蹊に進学することになりました。今年の入試で成蹊の受験者が20%近く増えたのは、「名門大学付属校人気」の影響かも知れませんが、少なくともこの4人は、「今風のデザイン」より「何の役に立つかわからない深海魚の調理実習」にご家族で共感したのですから、きっと充実した6年間を過ごしてくれるはずです。

出会いが生んだ「化学反応」、姉妹校も学び合う関係に

大妻中野での久しぶりの見学会再開も、中田先生がつないでくださった縁の賜物でした。昨年校長を退任された宮澤先生は声楽家としての道を断念し、音楽科の教員を第2の人生として選ばれて以来、大妻中野の大黒柱として活躍されるとともに、ゼロから立ち上げた合唱部をNコン(NHK全国学校音楽コンクール)で金賞受賞にまで導いた「レジェンド」的な先生です。

大妻中野も今年の入試で、2月1日の午前・午後を合わせた受験者数が402人から497人と約24%増、2日午後も177人から276人の約56%増と急上昇しました。3、4回と受験して合格した「ほれ込み度」の高い受験生を大勢迎え入れることができたようです。前校長の宮澤先生が心血を注いで設計された新校舎も、活気にあふれた学内の雰囲気も、見学会に参加した保護者には確かに好評でしたが、今年いきなり受験者が急増したのには驚きました。

実は、姉妹校の大妻中(所在地の東京都千代田区にちなみ、〝大妻用語〟で「千代田」と言われる)の校長に一昨年就任された成島先生とも、不思議なご縁で何度か食事をする機会があり、「この先生なら大妻を劇的に変えてくれる」と確信して、一昨年、学校見学会を開催させていただいたところ、それまで毎年3、4人程度だった塾の進学者が一気に11人へと急増しました(今年は人気・難易度とも劇的に上昇し、「大妻中第一志望」の塾生の多くが涙を飲む結果になったのは残念でしたが…)。

この2月、成島先生と宮澤先生のお誘いを受け、食事をしながら、いろいろなお話を伺うことができました。これまで大妻の「千代田」と「中野」はまったく交流がなかったのに、成島先生の「千代田」校長就任以来、頻繁に学校訪問や合同研修が行われ、互いに認め合い、学び合う関係が築かれたそうです。

「偏差値」では千代田の方が中野よりずっと上ですが、2校合同で東京大学を訪問したとき、手を挙げて質問するのはみんな中野生、「研究室を見学しますか」という誘いにすぐ反応したのも中野生だったそうです。一方、引率した教師に促されてようやく「私も参加していいですか」と遠慮がちに参加し、研究室に入ってから次々と鋭い質問をしたのは千代田生だったとのこと。

何事にも物おじしない積極的な中野生と、真面目で慎重な千代田生。教育に半生を捧げられた「中野」の宮澤先生と、ビジネスの世界で大活躍されていた「千代田」の成島先生。その出会いが、「化学反応」を引き起し、両校の人気を上昇させる原動力だったのかも知れません。

すてきな「縁」探し、結びつけるのが塾教師の喜び

成島先生との最初の出会いをセッティングしてくださったのは、塾業界の「大御所」である森上教育研究所代表の森上展安先生ですが、私たちの塾で昨年初めて学校見学会を開いた開智日本橋(東京都中央区)の一円尚(いちえんひさし)校長先生とのご縁も、森上先生のお声かけがきっかけでした。

初の開智日本橋見学会については別の機会にじっくり語りたいと思いますが、古い伝統ある女子校から「オシャレで今風なデザインの共学校」に変身した学校が人気を集めるなか、下町・浅草橋にあるやや狭い旧日本橋女学館の校舎のままで、説明会もどちらかというと地味でやぼったい雰囲気なのに、今年の実受験者数は44%増と急増しました。なかでも男子の受験者数が大幅に増えているのは、イメージ戦略ではなく教育の「中身」が評価された結果だと思います。

そして、昨年、私たちの塾が学校見学会を開催した4校目は、女子聖学院(東京都北区)です。毎年、塾生のテストと保護者会の会場として、校舎をお借りしているのですが、昨年はたまたま私たちの不手際で、保護者会終了後の校舎見学を行うことができず、改めて塾の見学会を開催していただいたのです。20人程度の少人数ながら、先生方の細やかな気配りに満ちた見学会は大好評でした。

女子聖学院では、今年は2月1日午前の受験者が30%増加し、大妻中野と同様に、志望順位の高い受験者を集めることで、実際の入学者数も16%増えました。それについて印象的なのは広報担当の先生から伺ったエピソードです。今年初めて実施したグループ面接を取り入れた「新傾向入試」で、合格者5人のうち4人が入学したとき、入試問題作成チームの先生方が全員で「やった~」と快哉(かいさい)の声を上げたそうです。

「新傾向入試」の問題作成は、ふつうの入試問題よりずっと手間がかかります。しかも、今は多くの私学が同じような新傾向入試を実施しているため、苦労して問題を作ったのに受験者がゼロという悲しい学校も珍しくありません。「合格者5人中4人入学」というのは確かに快挙といえるでしょう。私たちも、小規模塾ながらテキストとテストを自主制作し、それでも塾生が減り続ける苦しい時期を経験しているので、「やった~」と叫ぶ気持ちは痛いほど共感できます。きっとその4人を含めて、入学した生徒一人一人を大切に育ててくれるに違いありません。

教師の仕事は、生徒の学力を伸ばすことですが、私たち進学塾の教師には、教え子や保護者と、学校との「縁」をつなぐという大切な使命があります。しかし都内だけで200校もある私学をすべて訪問し、200人以上の受験生とのマッチングをすることなど、できるはずがありません。

その点で、昨年はたくさんの「人の縁」に恵まれた1年でした。もちろん「難関校の合格者数」にも徹底的にこだわりますが、それ以上に「この仕事を選んでよかった」と思うのは、それぞれの学校と一人一人の生徒・保護者との「赤い糸」を見つけ出し、最良の「縁」をつなぐことができたときなのです。

今回は、私たちの塾で学校見学会を昨年初めて開催し、あるいは久しぶりに再開した学校を取り上げましたが、今年もまた新しい「赤い糸」を探し求め、すてきな「縁」をつなぐ努力を続けていきたいと思っています。